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お口の健康講座
歯科にかかる理由、歯医者で治療をしなければならない疾患として、大きく2つの病気があります。1つは「虫歯」で、もう1つは「歯周病」と呼ばれる疾患です。今回は歯周病のお話をさせていただきます。
歯周病の症状はさまざまで、歯ぐきから血が出る、歯肉が腫れる、違和感がある、口臭がする、膿の味がする、歯がぐらぐらする、歯がのびてきた、冷たいものがしみる、咬むと痛い、食べ物が詰まるようになった、などなど。人によって症状は色々ですが、基本的には激しい痛みが出にくい、というのが特徴です。
なぜ歯周病になるのでしょうか?虫歯と同じく、歯周病の原因にも個人差があるようです。今回は歯周病の原因についてお話いたしますので、どうぞご覧ください。お口のお悩みについて、ご参考になれば幸いです。
一般的に歯周病と呼ばれている疾患は、病気の分類では「歯周炎」という呼び方をします。歯周炎という字は「歯」の「周り」の「炎症」と書きますので、歯そのものではなく、歯の周囲の病気という事になります。では、その病気になる歯の周りの組織とは何でしょうか?
歯の周囲にはまず歯肉があって、歯肉の下には歯を支えている顎の骨があります。この歯を支えている骨を「歯槽骨」と呼びます。硬いものを噛んで歯に力をかけても平気なのは、歯が丈夫なだけでなく、歯槽骨が歯をしっかりと支えているからなのです。そして、この歯を支えている歯槽骨が溶けてしまう病気を歯周炎と呼びます。
骨が溶ける場所によって歯周炎は2つの呼び方をします。歯ぐきの方から進行する場合は、縁から骨が吸収されていくので「辺縁性歯周炎」と呼び、歯の根っこの先(根尖)の骨が溶けてしまう場合を「根尖性歯周炎」と呼びます。根尖性歯周炎は神経の無い歯の根尖周囲に生じる疾患で、いわゆる歯ブラシやクリーニングなどの努力で治せるものではありません。ですので、一般に歯周病と言った時には、辺縁性歯周炎のことを指す場合が多いと思います。
歯肉が腫れて、歯ぐきから出血するけれど、その下にある歯槽骨は溶けていない、という場合は、骨が溶けていないので歯周炎とは言わず「歯肉炎」と呼びます。歯肉炎は元に戻るので心配いらないのですが、骨が溶けてしまう歯周炎は、進行すると歯がぐらぐらしてきてしまうので注意が必要なのです。
辺縁性歯周炎の原因は、大きく分けて2通りあると考えられています。それは「細菌」と「力」です。我々は歯周病の治療や予防処置をする際に、歯槽骨が吸収した原因を正確に把握し、その原因に応じた処置を行うという事を明確にするために、それぞれ「プラークコントロール」と「フォースコントロール」という表現を用います。
辺縁性歯周炎は歯槽骨が辺縁から吸収されてしまうことですが、辺縁歯槽骨の吸収の仕方、つまり骨の溶け方は2つのパターンあるんです。全部の歯が同じように、横一斉に口の中全体で歯周病が進行していく「水平性骨吸収」と、特定の1本や2本の歯だけ骨吸収が進行する「垂直性骨吸収」の2つです。
水平性骨吸収の場合は、全体的に進行していくので、患者さんに「歯ブラシ頑張ってください」って言えるのですが、垂直性骨吸収の場合は、その特定の1本2本の歯だけ歯みがきをしなかった、という事はあまり考えにくいので、汚れが溜まって歯周病になったという原因では説明がつかないことが多く、その場合には歯周病が進行した特定の歯にプラーク以外の原因があるはずだと考えます。その多くが咬合性外傷などの力の要因と考えられます。なので、水平性骨吸収はプラークが原因で、垂直性骨吸収は力が原因、と考えると理解しやすいと思います。
歯と歯ぐきの間には歯肉溝と呼ばれる2㎜程度の隙間があります。これはどなたにもある正常な構造なのですが、その隙間の中には空気が嫌いな細菌が住んでいます。歯ブラシが十分でないと、この細菌たちが増殖し、毒素を出して、歯肉に炎症がおこるので、ポケットが深くなって細菌が増殖しやすくなります。増殖した細菌の塊は時間とともに唾液のカルシウムなどが沈着して歯石と呼ばれる石になり、歯ブラシでは除去できない状態になります。そしてこの歯石を拠点に細菌はさらに増殖し、歯ぐきに炎症をおこして、歯槽骨を溶かしながら深く深く進行していきます。その結果、歯がぐらぐらしてしまう、という事になります。ですので、歯周病は歯周病原菌による感染症という考え方がされるのです。
口腔内を無菌にすることは不可能なのに、感染症という表現は適切ではないような気もしますが、しかし口腔内にはたくさんの細菌がいて、その中の歯周病原菌にも多くの種類があって、原因菌の中には毒性の強いのから弱いのまで色々います。歯周病の原因菌で特に悪さをする悪玉菌が3種類いて、これらをレッドコンプレックスなんて呼んでいます。悪玉菌がいる場合、歯周病は重篤になりやすいので、やはり細菌のコントロールが重要になるのです。
歯周病予防で一番大切なことは、歯ブラシやフロスでプラークを除去すること。これが基本であり、最も効果が高い予防方法です。歯周ポケットが深くなった場合や、歯の間に隙間が開いてきた場合などは、状態に合わせて歯ブラシの仕方にもコツが必要ですが、口腔内の環境改善にはプラークの除去が最も重要なのです。
歯を支えている骨が吸収される原因の一つに「力」があります。地面の土の中に杭を打ち込んだ状態を想像してください。2/3ほど地面に埋まった杭の頭の部分をつかんで、横に力をかけてぐらぐらと揺らしてみます。すると、縁の部分から杭の周りの土が離れていって、ロート状に広がりますよね。抜けないまでも、地面に近い側は周囲の土が寄せられて隙間ができます。これが垂直性骨吸収と呼ばれる状態です。歯に強い力、特に持続的な力や横方向の力が加わった場合は、その歯にかかる力で歯槽骨が吸収してしまうのです。
歯に強い力が加わると言っても、食事の時に硬いものを噛んで食べる、というような力では、正常な歯槽骨を破壊するほどの力はかかりません。ここで言う力とは、ブラキシズムと呼ばれる歯ぎしりなどの力、TCH(歯列接触癖)と呼ばれる無意識の歯の接触、うまく調和がとれていない被せ物や歯列不正などによる力の集中、あるいは歯周病でもう弱っている歯に加わる咬合力などを指します。
一生懸命に歯ブラシを頑張っているのに、あるいは定期的にクリーニングをしているのに、特定の場所だけ歯周病が良くならない、というような場合は、プラーク以外の原因、つまり歯にかかる力の調和に問題があるのかもしれません。咬合のバランスを整えることは歯周病予防につながるのです。
歯周病の原因として、上記の2つの他にも様々な要因が挙げられます。歯周病を感染症であると考えた時、病気になるかどうかは原因菌と免疫力のたたかいになるので、このバランスが崩れると発症する、という事になります。歯周病発症のリスクファクターにはどのようなものがあるのか、一緒に考えていきましょう。
まず歯周病のリスクとして有名なのは「喫煙」です。歯ぐきのピンク色は毛細血管の血液の色なのですが、免疫細胞たちは血管の中をパトロールしています。細菌感染があると免疫細胞たちがバイ菌をやっつけに行くのですが、タバコは血管を収縮させるので、血の巡りが悪くなり、免疫細胞たちが現場にたどり着けず、歯周組織は病原菌に負けてしまうのです。また糖尿病で血糖値が高い場合にも、やはり免疫細胞たちが十分に活躍できず、歯周病の進行を許してしまいます。血糖値のコントロールはとても重要です。
唾液は虫歯や歯周病予防にとって重要で、唾液の分泌が少ないと歯周病リスクは高くなります。口呼吸や唾液量の減少は虫歯や歯周病、口臭の原因になります。普段からお薬を飲んでいる方は唾液量が減少したり、加齢によっても唾液が減ります。また唾液の分泌には自律神経の良いバランスが必要なので、ストレスをコントロールして日常生活を過ごすことが重要となります。ストレスは免疫力を低下させるので、あらゆる疾患のリスクファクターとなります。不規則な生活は歯周病のリスクになります。妊娠中はホルモンのバランスが変化し、歯肉が腫れやすくなり歯周病リスクが高くなります。食事の種類、食事のとり方によってもリスクが異なります。骨粗鬆症もリスクファクターと言えます。遺伝的な要因もあると言われています。
このように、それぞれの生活環境や身体の状態などによって歯周病のリスクには差がありますので、決して歯ブラシが下手だから歯周病になった、という理由だけではないのです。歯周病の原因は人それぞれなので、まずご自身の歯周病リスクがどの程度あるのかを知ることが重要なのだと思います。
歯周病予防の基本は、やはり歯みがきです。毎日の歯磨きが最も大切だと思います。しっかりと歯をみがいて、口腔内の細菌の数を減らしましょう。
でも歯ブラシには限界があるし、口腔内を無菌にすることは不可能です。だからこそ、細菌に負けないような強い免疫と、歯周病になりにくい健康な身体を作る事が大切になります。口から入る食べ物で身体は出来ているので、食事は重要です。規則正しい生活、バランスの取れた食事、メリハリのある生活、そして笑顔。これが大事なのです。心と体の健康を目指しましょう。
もちろん、定期的に歯科医院でプロケアを受けて、しっかりと歯周病を治すことも不可欠です。専門知識と技術のある歯医者で定期的にクリーニングを受ければ、歯周病は予防できるし、歯周病になっても、ちゃんと治るのです。ずっと付き合っていけるかかりつけ医をもちましょう。患者さんの話を親身になってしっかりと聞いて、一人一人ちがう個別の状況や問題点を汲み取ってくれて、予防や歯周治療についてちゃんと詳しく説明してくれる歯科医院が良いと思います。歯は大事です。長い人生、信頼できるかかりつけ歯科医がいると安心ですよね。
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